Creature Comforts

慢性的中二病

藁の盾 (ネタばれ注意)

さすが、三池監督、とてつもない「悪意」を見せ付けられた作品でした。

 

本編、マジでネタばれしますので、見に行く予定の方は読むのをとめていただければと思いやす。

 

まず、この作品は殺人者でどうしようもないクズの擁護する警察官(SP)のお話です。で、その被害者の大金持ちの遺族が、この犯人を殺した懸賞金をかけたことにより、犯人輸送のレベルがとてつもなく上がってしまう。

http://eiga.com/movie/77330/

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大沢たかお松嶋菜々子藤原竜也らの豪華共演で、木内一裕の同名小説を映画化したサスペンスアクション。監督は「十三人の刺客」「悪の教典」の三池崇史。孫娘を殺害された政財界の大物・蜷川が、新聞に「この男を殺してください。清丸国秀。御礼として10億円お支払いします」と行方不明の犯人殺害を依頼する全面広告を掲載。日本中がにわかに殺気立ち、身の危険を感じた犯人の清丸国秀は福岡県警に自首する。警察は警視庁警備部SPの銘苅一基、白岩篤子ら精鋭5人を派遣し、清丸を福岡から警視庁まで移送させる。しかし、清丸への憎悪と賞金への欲望にかられ、一般市民や警護に当たる警察官までもが5人の行く手を阻む。

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つまりですね、普段人を殺してはいけないという一般常識があるわけで、どんな凶悪な殺人犯にも人権がある、という法のしばりもプラスしているので、通常は敵討ちはできないようになっている。見方によっては、被害者感情よりも犯人の(一定の)人権に重きをおいている。この辺のバランスは各個人がそれぞれ有している心の天秤だと思います。このストーリーが面白いのは、その天秤の浮いている「人権」とか、「正義」とは逆のほう、つまり凶悪犯を恨み殺してやりたいという側に、大金持ちの遺族が10億円をかけてしまったところ。まずお金に困っている人はこの天秤が逆転する構造になっていて。お金を目的に犯人を殺そうとやってくる人があらわれるんですね。

予断ですが、お金目当てで殺そうした人々はじつはやむにやまない事情があって・・・というのは少しノイズな気がしました。

で、そんな天秤がぐらつく人たちのなかで、唯一絶対的に正義という重石で天秤をぐらつかせないのが、主人公の大沢たかお演じるSPの銘苅なわけです。

で、意地の悪い製作者はこの主人公にいろんな試練を与えるのです。一緒に護衛をした刑事の死、被害者の登場、お金、そして、反省のそぶりが一向にない犯人役藤原竜也(怪演!)。これでもか、というくらい大沢たかおの天秤を揺さぶるように重石をのせていく。

見ているうちにですが、「あぁ、これは大沢たかおの天秤のぐらつきを見せられていると思ったけど、これは製作者が私(映画の観客)の天秤に重石を乗っけてあざ笑っているのだ」と感じるようになりました。最初は彼の正義感に心打たれて、無事犯人輸送がすむことを祈っていました。しかし、だんだんと私の天秤の重石が乗っけられていくうちに、「いいよ、大沢たかお、もうそいつ殺っちゃお」と天秤が思いっきり傾くのを感じました。製作者としては、してやったりではないでしょうか。

特にクライマックスの同僚SPの白岩演じる松嶋菜々子が殺されてしまったところは天秤に重石10倍どーん!っていう衝撃をうけてしまいました。命をかけて守ってきた松嶋をあっさり殺した凶悪犯、その理由をきかれると「おばさん臭い」からとか・・・。もう死刑でしょ!(というか松嶋さんに対する製作者の悪意も感じずにはいられないw)さすがにぶち切れ犯人銃を向ける大沢。それを見ている私は、もうすでに天秤が振りきれてしまっていたので、「殺れ、殺っちまえ!!頼むから」と心から願うように。本来は天秤で一番重いはずの「人の命」と「人の命を守るという自分の価値観」がまんまと鳥の羽のように軽くなっているのです。

そして最後に、裁判の判決を文字で表すシーン「主文・被告人を死刑とする」。これだけの犠牲者をだしてきながら守ってきた人間を、あっさりと法律のもとに殺すことを決定するシーン。もう、製作者の超悪質な嫌がらせです。

 

というわけで、とても嫌な気分となり、逆説的に超楽しんだことになる映画でした。細かい設定や演出に無理があるだろう、という突っ込みもありましたが、自分の揺らぐ気持ち、本心をさらけだされたところに見た価値があったかと思っています。あー気分悪っ!